<執筆者>
古川登・松山和彦・善端直・白川稜・佐藤豊・田中伸卓・奥谷博之
・的矢俊昭
<目次>
1調査経過　2遺構　3遺物　4鐘島遺跡の調査　5考察　6英文抄訳　写真図版
<内容>
キーワード:山林寺院・転用硯・数珠玉・墨丁・墨書土器・須恵器燈明具　
　明寺山廃寺は、8世紀末に創建され10世紀前葉に廃絶する山林寺院である。丘頂を削って本堂基壇と平坦面を削りだし、平坦面西側を盛土する。遺構は、本堂と脇堂からなり、L字形に配置される。本堂は南面し、脇堂は東面する。本堂前面は約20m四方の平坦面で、その中央に仮設の舞台痕跡がある。また、西斜面に多量の土器他を廃棄した物原がある。
　出土遺物は、須恵器・土師器が中心を占める。須恵器は椀・杯・盤・蓋が主体を占め、大平鉢・瓶子・甕・鉄鉢形もある。蓋には焼成前に「寺」の字を押捺した施印土器がある。土師器は、杯(灯明具)・長胴甕・短胴甕からなる。組成としては杯・長胴甕は微量で、短胴甕が9割以上を占める。短胴甕は煤の付着したものは数点で、赤彩した甕もある。
　特殊遺物は水晶製丸玉(数珠?)、土師質瓦塔、奈良産とみられる軟質な二彩ないし緑釉陶器とみられる瓶子、文房具の墨丁がある。墨丁は、舟形を呈するいわゆる唐墨で、界線で区画した中に樹枝紋を施す。発火具では赤色石英・瑪瑙製の火打石がある。建築部材に鉄釘、造営関係に鉄素材(鼠銑鉄)・椀形滓・スラグがある。硯は全て須恵器転用硯で、黒墨は蓋転用硯25・盤転用硯36・椀転用硯1・甕転用硯(猿面硯)1、朱墨は蓋転用硯1・盤転用硯3・杯転用硯2点で、多量の転用硯は写経の行われていたことを示している。
　なお、明寺山の麓には寺を造営した檀越の集落とみられる鐘島遺跡が7世紀後半〜12世紀にかけてあり、その調査成果も併せて報告している。多量の須恵器椀・杯・盤・蓋・土師器甕・杯・盤のほか須恵器円面硯・鉄鉢形、畿内産暗文土師器椀、越州窯青磁椀、近江産緑釉・濃尾産灰釉陶器皿・椀、畿内産黒色土器椀、習書木簡などが出土している。
　考察は、古川登「明寺山廃寺の創建と変遷、その活動について」、松山和彦「北陸における古代寺院遺跡の一様相」、善端直「明寺山廃寺の瓦塔について」、田中伸卓「明寺山廃寺・鐘島遺跡の墨書土器・習害木簡について」、奥谷博之「明寺山廃寺の施印土器について」、白川稜「明寺山廃寺の火打石について」、佐藤豊「明寺山廃寺出土鉄器の調査」、田中伸卓「丹生郡の古代氏族と郷について」の8本を所収。
　松山の北陸における古代寺院遺跡の一様相は、石川県下における山林寺院、集落内寺院の分析から明寺山廃寺の位置づけを検討する。白川の明寺山廃寺の火打石については、どのような使用痕があれば火打石と認識することが出来るのか、石器研究者の視点で迫る。いずれの論文も明寺山廃寺の調査成果をもとに真摯に検討を加えており、一読されたい。