<執筆者>
古川登・御嶽貞義・大賀克彦・下垣仁志・福田さよ子・堀大介・壱岐一哉・的矢俊昭
<目次>
凡例　1調査経過　2報告　3研究編　4英文抄訳　写真図版
<内容>
キーワード:古墳編年・越前の前方後円墳集成・倭製獣毛紋鏡・ガラス小玉　
　『小羽山古墳群』という報告書を一言でいうなら、実験的な報告書といえる。通常の報告書の本文は調査経過から始まるが、本書は20頁におよぶ凡例-古墳時代の時期区分-から始まる。この凡例は、凡例という名の論文であり、2002年の日本考古学協会奈良県橿原大会で北条芳隆氏が最も過激な古墳編年と評している。副葬行為が、廃棄行為であるとは、凡人である私には考えることも出来なかった。大賀氏の凡例は緻密であるだけでなく、編年に用いた基準資料のほぼ全てを氏が実見しているというところに、この編年がいわゆるハサミとノリの古墳編年でないことがわかる。批判は可能である。しかし、その前に氏と同じく国内の古墳出土資料を実見する勇気があるだろうか。
　報告は、前期の前方後円墳2基、円墳3基、方墳2基、中期の方墳1基、後期の円墳6基の14基の古墳ほかである。特筆する遺物は、12号墳の倭製獣毛紋鏡1面であるが、資料的に重要なものとして、8号墳出土須恵器がある。埋葬が1基の8号墳に2型式の須恵器が認められ、顕著な使用痕の認められるものと、使用痕の観察されないものがあり、それは型式の新古と合致し、被葬者が生前に使用していたものと、埋葬儀礼に用いるために集められたものとが一つのセットを形成する。2型式の須恵器は、2時期の埋葬の存在を示すという理解があり、埼玉稲荷山古墳では未調査の埋葬施設の存在が指摘されている。しかし、8号墳の須恵器は、そのような理解が恣意的ではないかと疑問を投げかける。2型式の須恵器の存在は必ずしも2時期の埋葬の存在を示さないという事実は重要であろう。　
　研究編は、古川登・御嶽貞義「越前における古墳時代」、福田さよ子「小羽山12号墳出土木棺材の樹種」、大賀克彦「日本列島におけるガラス小玉の変遷」、下垣仁志「小羽山12号墳出土鏡と古墳時代前期倭製鏡」が収録される。越前における古墳時代は越前地方の主要古墳180基余りのデーターと70余基の墳丘実測図を転載ではなく再トレースして掲載する。越前地方の主要古墳を知るインデックスとなるだろう。
　大賀の日本列島におけるガラス小玉の変遷、これを一読すれば、多くの考古学徒が、実は「ガラス小玉」というものが何かを知らないことに気づかされるだろう。下垣の小羽山12号墳出土鏡と古墳時代前期倭製鏡は、小羽山12号墳倭製獣毛紋鏡の系譜とその歴史的位置付けを明らかにしている。これら凡例をはじめとする論考は、報告書の論考にしておくには「もったいない」という思いを、強く持つ。