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【内容】　※本書「はじめに」より抜粋
　日本古墳の特質の一つとして多様な「墳形」(墳丘形式)の存在をあげることができる。古墳時代を通じて、日本各地で無数ともいえる古墳が、数種類の墳形と、さまざまな規模・プランで築造された。大王墳を頂点とする前方後円墳は、王族墳や中央、地方の豪族墳として、また、いわゆる帆立貝式古墳をはじめ、円墳、方墳などの中・下位墳形の古墳も、ある種の階層性を反映するかのように営まれた。一定の地域あるいは古墳群において、前方後円墳とその他の墳形が混在する場合、あるいは中・下位墳形の古墳だけが群集する場合など、各墳形の組みあわせは多様であり、その地の政治勢力の内部構造を推察する手がかりを与えてくれそうである。
　私は古墳の築造には主丘部(前方後円墳の後円部など)の直径または一辺の24 分の1 の長さ(24 等分値)を基準単位とする設計法(24 単位設計法)が、古墳時代を通じておこなわれたことを明らかにしてきた。さらに、その基準単位にもとづく作図作業によって、古墳の企画性を把握する方法を確立した。　また、古墳造営尺の検討をとおして、主丘部の直径または一辺は任意の長さに決められたのではなく、一定の古墳造営尺の6 歩きざみにあらかじめ定められた規格値(墳丘規格)のなかから選択されていることを明らかにした。
　日本各地の古墳が、かぎられた数種類の墳形で、しかも一定の築造原理(設計法)と墳丘規格で築造されていることは、それらが造墓主体者の発意で好き勝手に営まれたものではなく、基本的に倭の中央政権の統制のもとに築かれたことを物語るものと理解される。
　このように考えてよければ、日本各地における古墳の存在状況、特にその墳形と規模のあり方をとおして、倭王権と諸豪族との政治的関係の動態を明らかにすることも可能となろう。(中略)その際問題となるのが、いわゆる帆立貝式古墳(本書では帆立貝古墳という)の捉え方である。残念ながら、これまで帆立貝古墳の定義づけ、他の墳形との区分基準については定説がなく、前方後円墳の一種なのか、独立した墳形なのかという点に関しても意見は分かれる。
　私は24 単位説(24 単位築造企画論)にもとづく作図作業によってこの問題の解決を図り、帆立貝古墳は前方後円墳とは明らかに異なる墳形であることを明らかにした。この問題に関しては、もはや新たに論ずべき課題もないが、既発表の文献では平面企画図をかなり縮小して掲載しなければならなかった。私の立論根拠は作図作業がすべてなので、大方の理解をえるため縮小しない図面の提示が必要と考え、挿図原稿を原寸大で提示する本書を刊行することとした。これらの企画図をとおして24 単位築造企画論の有効性、可能性について認識してもらえれば幸いである。
　帆立貝古墳とはどういう古墳なのか、この問題を正しく理解することによって、古墳の存在状況からその時代の政治動向を推察しようとする試みは、はじめて有意なものになると思う。

【目次】
はじめに
1 　帆立貝古墳という墳形
2 　24 単位設計法
3 　古墳造営尺
4 　前方後円墳との境界
5 　最大の帆立貝古墳
6 　帆立貝古墳の各単位型
7 　帆立貝古墳における大小の突出部
8 　造出付円墳
9 　造出論
10　帆立貝古墳の被葬者
引用文献
平面企画図集　※約60頁
あとがき

著者略歴
沼 澤　 豊(ぬまさわ　ゆたか)
昭和21年東京生まれ
千葉県の埋蔵文化財担当専門職員として文化財保護と博物館業務にたずさわる。