【内容】
　弥生時代と古墳時代の集団の把握と評価には、未だ大きな隔たりが認められる。とりわけ等質的な集団関係が想定されている弥生時代中期から、一定の階層分化を前提とした集団関係が想定される古墳時代へといたる社会変化の途上に位置する弥生時代後期の実体把握が課題となっている。
　弥生時代中期のような大規模集落も,古墳時代のような顕著な墳墓とそれに対応する居館や生産拠点も認められない当該期の考古資料からいかなる社会を復元すべきか。この時期における社会の評価は,日本列島における古代国家形成のシナリオに大きく影響する重要な論点であり,弥生時代中期よりも社会が単純化したのか,あるいは別の形の複雑性をもつ社会へと移行したとみるべきか,積極的な問題設定が求められているといえる。
　本書では、こうした目的意識に基づき、記録保存目的を主とする発掘調査によって得られた膨大な集落遺跡出土資料を対象とした各地の研究者の検討を収録。集落遺跡から新たな弥生時代後期の集団の把握と評価を試みることで、弥生時代研究と古墳時代研究の統合をはかる。
　古代学研究会2021年度拡大例会シンポジウム「弥生後期社会の実像」をもとにした成果報告書。

【内容】
　今や集落の研究は多くの自然科学的研究の発達と精緻な土器編年にも支えられ,その正しい時間軸を得て同時に存在した集落遺構の関係性の分析を深め,それを契機に大きく進展したと言っても過言ではない。歴史の一断章とも言うべき集落論の議論の俎上に上がっている問題の解決に向けて,新しいステージに立っている自覚がある。(中略)
　12 年間これまで持続してきた本研究会の集落史探求の新しい試みのなかでも,紀元1 〜2世紀の列島史転換の集落の変遷やその背景の解明に鋭意挑んだものである。凄まじい勢いで行われた発掘調査も全国の多くの地域で一息ついてきた。さまざまな動機の開発に追われ,最も多くの面積で凄絶な遺構消滅の犠牲を払ってきたのが集落遺跡である。このままでは多額の費用と人材を投入してきた各地の集落遺跡の調査成果は棚上げされ蔑ろになる。本会ではその危惧に鑑み,古代学といった広い眼差しと識見の下,鋭意集落とその人間活動の歴史の本質の問題とスパンを長くして取り組んできたのである。そして,より議論を深めることで析出されたのが,社会変革で議論が多出する紀元前後から登場の弥生後期の集落問題であろう。(中略)
　本書で示された弥生時代後期の集落の再検討は間違いなく究極の目標を絞り込んでの取り組みであった。ヤマト王権成立前史としての不動の価値を有し,後世の畿内社会を先取りした規定路線で語られてきた近畿の弥生後期の評価の真偽を問うテーマのひとつであり,この拡大例会の議論されたことの結集は,日本の世界の学界に裨益すること多く,集落研究にきっと新しい息吹を吹き込むことだろう。(後略)
※古代学研究会前代表森岡秀人氏の序文から一部抜粋

森岡秀人 序
例言
三好玄・田中元浩　本書の目的と分析方法
第1部　弥生後期の集落構造と地域社会
事例報告
三好玄　河内地域における弥生後期の集落構造と集団関係
三好玄　和泉地域における弥生後期の集落構造と地域社会
山本亮　大和地域における集落構造と社会の変化
田中元浩　紀伊地域における集落構造の変化
中居和志　近江地域の建物構成と集落構造
渡邊誠　讃岐地域における弥生時代後期の集落構造
荒木幸治　播磨地域における中後期の集落構造分析
桐井理揮　山城における弥生後期の集落動向
清水邦彦　東摂津地域における弥生時代後期の集落構造
園原悠斗　西摂津地域における建物構成と集落構造
河合忍　吉備南部における弥生時代後期から古墳時代前期の集落構造 備前・旭川下流域東岸の分析を中心として
森本幹彦　筑前地域(西部)の弥生時代後期集落
坂本豊治　出雲地域における弥生後半期の集落遺跡
シンポジウムの記録
塚本紘太郎　拡大例会シンポジウム討論の記録作成
塚本紘太郎　5月例会ミニシンポジウム討論の記録作成
第2部　遺物からみた弥生後期社会
�鹵�今日子　石器からみた弥生時代後期
戸塚洋輔　弥生時代後期における銅鐸の生産と流通
清水邦彦　青銅器生産からみた弥生時代後期
第3部　総括と今後の展望
総括
田中元浩・三好玄　弥生後期社会の実像とその評価
今後の展望
伊藤淳史　弥生時代「後期」をどのように評価するのか 近畿地方を中心とする研究史から
若林邦彦　弥生時代後期〜古墳時代変化のモデル化をめぐる断想
禰�電腸唾法ゞ甬μ鐇幻經�社会の諸問題 20世紀の研究視点から考える
森岡秀人　弥生時代後期の近畿の南部と北部 時空間をめぐる確執の淵源
三好玄　集団組織原理にかんする理論的検討 「出自集団論」批判

編者一覧
田中元浩　(たなかもとひろ) 和歌山県立紀伊風土記の丘
三好　玄　(みよし　げん) 大阪府立弥生文化博物館

執筆者一覧(執筆順)
三好　玄　(みよし　げん) 大阪府立弥生文化博物館
田中元浩　(たなか　もとひろ) 和歌山県立紀伊風土記の丘
山本　亮　(やまもと　りょう) 東京国立博物館
中居和志　(なかい　かずし) 京都府教育庁
渡邊　誠　(わたなべ　まこと) 香川県埋蔵文化財センター
荒木幸治　(あらき　こうじ) 赤穂市教育委員会
桐井理揮　(きりい　りき) 京都府教育庁
清水邦彦　(しみず　くにひこ) 島根大学法文学部
園原悠斗　(そのはら　ゆうと) 兵庫県教育委員会
河合　忍　(かわい　しのぶ) 岡山県教育庁
森本幹彦　(もりもと　みきひこ) 福岡市
坂本豊治　(さかもと　とよはる) 出雲弥生の森博物館
塚本紘太郎　(つかもと　こうたろう) 島田市
�鹵�今日子　(せたに　きょうこ) 和歌山県教育庁
戸塚洋輔　(とつか　ようすけ) 彦根市
伊藤淳史　(いとう　あつし) 京都大学大学院文学研究科附属文化遺産学・人文知連
携センター
若林邦彦　(わかばやし　くにひこ) 同志社大学歴史資料館
禰�電腸唾法�(ねぎた　よしお) 大阪府立弥生文化博物館
森岡秀人　(もりおか　ひでと) 古代学研究会前代表
(所属は2025 年3 月現在)

装丁
カバーイラスト:小東憲朗　復元イラスト「大中集落遠景」(播磨町郷土資料館蔵)
装丁デザイン:篠塚明夫