第5回 2013.09.10
東京都の中世城館発行元: 戎光祥出版 2013/08 刊行
評者:池田 光雄 (中世城郭研究会)
城郭研究者必備の城館址分布調査報告書、待望の刊行
近年の県単位城館址分布調査報告書は非売品がほとんどだったので、この本の販売は大変うれしい。許可された東京都教育委員会、西股総生氏(以下調査者は彼をさす)に感謝するとともに発行元の戎光祥出版の英断に拍手をおくりたい。分布調査報告書は城址調査の基本台帳であり、これで終りでなく新たな調査研究が始るきっかけとなる本である(実態はあまり進展がないようであるが)。財政上の問題もあるが、研究者のために有償配布してもらいたいものである。この本は大きく2部構成である。
第一部は城址の一覧表、分布図であり206の城址がのっている。これで東京都の城址の概数は約200で決まりであろう。但し、この本の性格上、調査者が城址と認めたもの以外はのせていない。
例えば
1、『日本城郭全集4』(1967)にある 沼袋の陣屋(中野区)
2、『多摩のあゆみ10』(1978)にある みのわ城(立川市)
3、『日本城郭大系5』(1979)にある 和田山(中野区)
などは私も違うと思うが、既存の本にのっている以上はなぜ違うかを一言述べて欲しかった。従来の誤りを訂正するページも必要と思った。
第二部は遺構の残っている城址や発掘された城址を主とした各論である。分布調査報告書はほとんどが数名から数十名の調査員の合作であるのにたいし、この本は調査者本人の報告、論文といってもよいものである。これはこれでよいのであるが、分布調査報告書としては異例であろう。他には群馬県ぐらいか(ほとんどが山崎一氏)。遺構の残っている城址が少ない東京都だから出来たのかもしれない。個々の城址についてはここで言及しない。もし個人的な見解があれば研究者がどこかで発表すればよい。そのための素材としての分布調査報告書である。
最初に述べたように分布調査報告書は古いものを含めてほとんどが入手不可となっている。戎光祥出版には同様の本の復刻(個々の著名な城址報告書を含めて)を切に願うものである。
その他のおすすめ図書について
1 月山富田城尼子物語尼子氏が衰退したため戦国大名の居城としてはあまり知られていないが、もっと評価されてよい城である。遺構の素晴らしさが良く分かる見やすい本である。
2 西国城館論集2
西日本を中心とした十六本の論文から構成されている。遺構遺物をはじめ城の分類や城下町等多方面の分野にわたっており、考古学担当者が城郭に対しどのような興味を持っているのかが良く理解出来る。
3 二条城を極める
二条城に関する本はたくさんあるが、コンパクトにまとまっているこの本を読めば二条城の全てが分かる。持ち運びにも便利である。
4 三重の山城ベスト50を歩く
三重県は有力な戦国大名が出なかったが、中世城郭の数は他県に比べて突出している。その中でも遺構が良好な城を選んでおり、城址調査の参考となる本である。
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