第2回 2013.08.15
第13回研究会資料集・北陸の石造物 研究の現状と課題発行元: 石造物研究会 2012/12 刊行
評者:古川 登 (日本考古学協会員)
北陸の石造物研究を総括する
第13 回石造物研究会は、西井龍儀(富山考古学会会長)を実行委員長とし、北陸の石造物―研究の現状と課題―というテーマで、2012年11月24 日(土)に富山県埋蔵文化財センターを会場に行った。本研究会は、北陸の石造物研究の現状と課題の認識を目的としたものであり、研究史、研究の現状、文献一覧、石造物資料の実測図集成と一覧表の作成を基本的な資料集作製要件としてあげて編集した。
北陸の石造物研究は、石造美術研究者によって始められ、考古学的手法による石造物研究が始まったのは、開発に伴う埋蔵文化財の発掘調査で中・近世の遺跡から石造物が出土したことによる他動的な要因である。このため、石造物研究が石造美術に較べて後出であることは確かである。
特別史跡一乗谷朝倉氏遺跡でも石造物の悉皆調査が水藤真らによって行われ、その成果が『一乗谷石造遺物調査報告書1−銘文集成−』朝倉氏遺跡調査研究所1975として報告されているが、副書名の銘文集成にあるように、文献史学による報告であって、考古学的手法によるものでなかった。また、一乗谷朝倉氏遺跡において、今日なお考古学的手法による石造物資料の集成の行われていないという事実に、石造物資料への無関心がわかる。
一方、富山県では立山の山岳信仰関連の石造物が悉皆的に調査されており、その研究意欲の盛んなことを富山の資料にうかがうことが出来る。このことに、研究は資料ではなく人材なのだと、思い知らされよう。
第13 回石造物研究会・北陸の石造物 ―研究の現状と課題―は、石造美術ではなく、考古学的手法による北陸の石造物研究の現状を総括し、今後の課題を探ることで、とくに、各地域における石造物の出現時期、石造物に用いられる石材、その産地について共通認識を形成すべく努力した。この目的を達成するため、資料集では、若狭・越前・加賀・能登・越中・越後・佐渡という極めて広域な地域の石造物の実測図を集成した。とくに福井県と富山県では多くの石造塔実測図を新たに作成した。北陸全土という、この広域にわたる地域の石造物の概要を瞥見することが出来る実測図集成は本資料集が最初である。今後、本資料集なくして北陸の石造物研究を語れないことは確かである。
考古学で石造物研究を行う、あるいは目指す者にとって、本書は羅針盤となるだろう。
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